恋は死なない。
真琴は、九年前、高校生だった佳音が作ったウェディングドレスを着て結婚式を挙げた、古庄の妻だ。
「はい。私が工房を開いてお祝いに来てくれたとき以来ですから、二年ちょっとです」
「わぁ、元気だった?工房は?順調なの?」
真琴からの矢継ぎ早の質問に、佳音は一度に答えきれずに肩をすくめて、とりあえず頷く。
「先生は、赤ちゃん、また産まれたんですね?」
腕の中にいる赤ちゃんを見て、佳音が表情を和ませると、真琴はリビングに戻りながら恥ずかしそうに笑った。
「そうなの。『また』ね、今年の春に産まれたの。これでもう四人目よ」
真琴の言葉が示す通り、リビングには赤ちゃんを除いて三人の子どもが所狭しと遊び回っていた。佳音が高校生のとき真琴のお腹の中にいた真和は、もう八歳になる。その真和を筆頭に、六歳の彦真、三歳の琴香、そして一番下の赤ちゃんの円香と二男二女をもうけて、古庄家は大所帯となっていた。
「先生って、会う度にいつも赤ちゃんを抱いてる感じがする……」
佳音のツッコミのようなつぶやきに、真琴の笑いに苦味が混ざる。
「ほんとに、その通り。この九年間は産休と育休ばかりで、まともに働けてないもの」
そうは言っていても、それをまったく気に病んでいないのは、真琴の子どもたちを見つめる優しい表情を見れば分かる。