恋は死なない。




「先生は、赤ちゃんの扱いに慣れてるんですね」


バスタオルの上に寝かされている裸の円香をあやしながら、オムツを着け、肌着を着せている古庄に向かって、佳音が思わず声をかけた。
古庄は、円香に向けていた優しい笑みのままで、佳音へと顔を上げる。


「もう、四人目だからな。それに、こうやって世話をしてかかわってないと、父親って赤ん坊にはすぐ忘れられてしまうんだ。修学旅行なんかで家を空けると、帰って来たときには『誰?』って顔をされる」


一度見たら忘れられないほどの古庄の魅力も、赤ちゃん相手には通用しないらしい。佳音が納得したように頷いていると、洗面所の方から兄弟の声が響いてきた。


「あっ!ちゃんと磨いてないのに、もうプクプクペッした!」


「上の歯も下の歯も磨いたよ!兄ちゃんは、いちいちうるさいよ!」


それを聞いて、古庄も困ったように眉を寄せる。


「真和は、顔は俺に似てるけど、中身は真琴にそっくりで、細かいことでもきっちりやらないと気が済まないんだ」


古庄はやれやれといった面持ちで、その場を立ち洗面所へと向かう。その時、その足を止めて、佳音へと振り向いた。


「そうだ森園、その子のパジャマ、着せてあげててくれ」


そう頼まれて、佳音は止まってしまった。赤ちゃんと二人きりにされて、いきなり焦りと緊張が押し寄せてくる。


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