恋は死なない。



「胸なんか関係なく、君を見てるだけで、俺はドキドキするんだ」


真琴の手の動きが、一瞬ピクリと止まった。


「……また、そんなことを言って、からかってるんでしょう?」


「からかってなんかないよ。君が俺に振り向いてニッコリ笑ってくれたら、今でも俺の心臓は止まりそうになる」


一生懸命になって語る古庄が、嘘を言っていないことは、真琴にも分かっている。真琴も意地を張るのはやめて、濡れている手を拭くと、古庄に向かって振り向き、ニッコリと笑った。


「ほら、今みたいに。俺の胸を触って確かめてごらん。本当にドキドキしてるよ」


古庄が真琴を抱き寄せて、そう言って促すと、真琴はそっとその胸に手を当てた。
胸の鼓動を感じ取って優しく微笑むと、古庄の腕はそのまま真琴を懐深くに閉じ込める。


……いつもなら、これからキスを交わすところだったのかもしれないが、その時を見計らったかのように、リビングの端にあるベビーベッドに寝かされていた円香が、突然泣き始めた。


円香のけたたましい泣き声に驚いて、二人の抱擁が解かれる。

と同時に、リビングの端にたたずんでいた佳音は、二人に発見されてしまった。お風呂から出てリビングに戻ってきたところで、二人の甘いシーンに出くわして、声をかけるにかけられなかったのだ。


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