恋は死なない。
古庄と真琴は黙ったまま、ただひたすらに待ってくれた。ダイニングには、円香が時折たてる声と、佳音が鼻をすする音だけが響いていた。
「……先生たちが、うらやましい……」
そして、ようやく佳音がポツリとつぶやいた。
「うらやましい?」
佳音が発したことの意味を探るように、真琴がその言葉を繰り返す。
「だって、愛し合って結婚して、子どももたくさん作って……、こんなに賑やかで温かい家があって……。私も、そうなりたいって思って、一生懸命生きているのに……、全然うまくいかないの……」
声を途切らせながら、佳音が語るのを聞いて、古庄と真琴も考える。
二年前に会った佳音は、工房を開いて自分の夢を一つ実現させ、その前途にある大きな希望に顔を輝かせていた。それが、こんなふうになってしまった理由は……?
「……仕事がうまくいってないのか?仕事の依頼がこないとか……?」
古庄の問いかけに、佳音は首を横に振った。
仕事は、工房を開いたころに比べたら、ずいぶん順調だった。逆に、この数日間何も手に付かなくなったせいで、しなければならない仕事が滞ってしまっている。
「仕事のことじゃなくて。……私、好きな人ができたんです……」
これを聞いて、古庄も真琴もその意外さに息を呑んだ。