恋は死なない。



「たとえ、そうすることで世間の信頼を失ってしまっても、その後しっかり地道に誠実に生きていれば、必ず取り戻せるよ。運命は、なるべくしてなってるんだ。どんなかたちであれ、お前がその男と出会えたのは、そうやって想いあって共に生きていくためなんだと、俺は思うよ。」


そう言いながら、古庄が円香をあやすと、円香は嬉しそうに笑い声を立てた。
まだ何も知らない無垢で屈託のない円香の表情に、佳音の張り詰めていた心も少しほどけていく。そんな佳音の様子を見て取った古庄は、しっかりと佳音に目を合わせてから言った。


「……『誰かのために』と思って、頑張ってきたんだろ?それで、心の底から想える人に出会える幸せが、やっと巡ってきたんだ。だから今、その幸せが通り過ぎてしまわないうちに、しっかりと繋ぎ止めておけ。この時ばかりは、『誰かのため』なんかじゃなく『自分のために』動かなきゃ、一生は他人を羨むばかりで終わってしまうぞ」


そう言ってくれる古庄を、佳音は涙の溜まる瞳で見つめ返した。
『誰かのために』生きることは、かつて古庄が示してくれた幸せになるための生き方だった。そして、佳音はその言葉に望みをつなぐように、生きてきた。


「私も、幸せになれるのかな?この苦しさを乗り越えて、先生たちみたいに……」


佳音の表情が穏やかに和いでゆくのを確かめて、真琴もホッと息を抜いた。


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