恋は死なない。
「私たちと境遇は似てるけど、佳音ちゃんは私たちとは違うわ。また違った幸せのかたちがある。ただ言えることは、本当の辛さや苦しさを経験したことのない人は、本当の幸せを感じることもできないの」
真琴の励ましを噛みしめるように、佳音は黙ったままでうなずいた。
まるで“こわれもの”のように繊細で敏感で、こんなにも純粋な佳音を心から愛したのは、どんな男性なのだろう。きっと同じように、純粋で誠実な人であってほしい……。
真琴は佳音に微笑みかけながら、ただそれだけを願った。
「……紅茶が冷めちゃったわね。ちょっと淹れなおすわ」
気を取り直すように真琴が椅子から立つと、古庄もあることに気がついた。
「お!そうだ。今日学校で、生徒からお菓子をもらってたんだよ。車に置きっぱなしだった」
と、円香を抱いたままその場を離れる。
しばらくして、佳音の前には香りのいい紅茶と小さなケーキが供された。
「今日は調理実習があったみたいで、女子からたくさんもらってしまったから、帰り際に職場の先生にもおすそ分けしたんだけど」
古庄がそう言うのを聞いて、佳音もかすかに表情を緩めた。
「相変わらず、先生は女子にモテてるみたいですね」
「こんな既婚のオジサンにあげるより、好きな男の子にあげたらいいのにね」
少しやきもちを焼いているのだろうか。ほんのりと皮肉を込めて、真琴が佳音に囁きかける。