恋は死なない。



「……オジサンになっても古庄先生は完璧だから。先生を見たら、きっとその辺の男子は目に入らなくなるんだと思います」


実際、佳音がずっと誰にも恋心を抱けなかったのは、この古庄のことを引きずっていたからに他ならなかった。

その固く凍り付いた佳音の心を、温かく解かし出してくれたのは和寿。
目の前に出された小さなケーキは、いつか和寿が作って持ってきてくれたケーキとよく似ていた。あの時、和寿は、幼いころから抱いていた夢を語ってくれた。


――あの夢をかなえるためにも、私と一緒に生きていってください……。


そんな言葉が、佳音の心の中に浮かんだ。
本当にこの言葉を彼に言えて、現実になってくれたら、どんなに幸せなことだろうと思う。

けれども、和寿は幸世と結婚して、社長になる道を選ぶ決心をしているかもしれない。せっかく思い出した夢を、これからも胸に秘めたままで、生き続けていくつもりなのかもしれない……。


ケーキを見つめたまま、考え込んでしまった佳音を、真琴は心配そうに見守る。
そして、小さなため息をついてケーキを口に含んだ瞬間、顔色が変わった。


「………これ!!」


思わず口に入っていたものを手のひらに吐き出して、シンクまで行って水道の水で流す。


「佳音ちゃん、食べちゃダメよ!これ、とんでもない味!!」


「ええっ?!」



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