恋は死なない。




「この時お腹の中にいた真和が、よく動いていたことを今でもはっきりと思い出せる。それほど、私にとっては忘れられない大事な瞬間だったの」


しみじみと真琴が語るのを聞いて、佳音もその見慣れた写真を、じっと見つめる。

このドレスは、佳音の原点だった。
このときのこの経験があったからこそ、今の自分がある。……そして、何よりも大切な和寿に出会えることもできた。

今、お腹の中にいる和寿の子どもが、生まれ出でて真和と同じくらいになったころには自分も、この真琴のように心穏やかに毎日を過ごせているだろうか……。

そんなことを考えていると、また佳音の表情は言いようのない不安に侵されて、暗く陰っていく。


「……まだ、なにか……、打ち明けられない心配事があるんじゃないの?」


真琴からそう切り出されて、佳音はうろたえたように真琴に視線を合わせた。
四人の母であり教師でもある真琴は、人を観察してその心を思いやることに、とても細やかだった。


「……私に助けてあげられるかどうかは分からないけど、打ち明けてくれなきゃ、何もしてあげられない。このままの状態のあなたを、一人で帰らせるわけにはいかない」


そう言って促されながら、真琴の真剣な目に見つめられて……、佳音の中に隠していた不安が膨れ上がって、涙とともに溢れてきて抑えられなくなる。


< 196 / 273 >

この作品をシェア

pagetop