恋は死なない。



黙ったまま決意のにじむ面持ちで、ゆっくりと頷く佳音を見て、真琴は再び考えた。


「相手の人が知らないままで、それでいいの?」


自分の血を分けた存在がこの世にいるのに、それを知らないなんて。それはそれでとても悲しいことだと、真琴は思った。
しかし、真琴にそう言われても、佳音は首をゆるく左右に振った。


「あの人に、知らせようとは思いました。先生たちのように、二人でこの子を育てていけたらとも思います。……だけど、あの人は、会社にとって必要な人なんです。私のことはもう忘れて、今の婚約者と結婚する決意をしているのなら、この子のことでまた迷わせてしまいます。それに、この子を口実に繋ぎ止めるようなこともしたくないんです」


和寿が『必ず戻ってくる』という、昨晩古庄が言ってくれた言葉。それは一筋の光のように感じられたけれど、そんななんの確証もない古庄の言葉を単純に信じ込めるほど、佳音は子どもではなかった。


どう助言をして、どうしてあげることが一番佳音のためになるのか考えたが、真琴には明確な答えが出せなかった。佳音の境遇を考えると、本当に辛くて切なくて、助言の代わりに涙が出てきた。


「……ごめんなさいね、情けない先生で……。私が泣いても、なんの解決にもならないのに……」


そう言いながら、真琴はポロポロと涙をこぼして泣き続けた。


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