恋は死なない。
強くなりたい
工房に戻ってきて、暗いダイニングに明かりを灯す。佳音は真っ先に手を洗うと、工房の作業台に真っ白な布地を広げてホッと息をついた。
それから、佳音は夕食を食べるのも忘れて、無心になってドレス作りに没頭した。この数日間、全く作業が手に付かなかったことが嘘のように、佳音の手は次から次へとよく動いた。
自分にはこれしかないと、佳音は思った。
自分が存在できる意味はこの仕事で、ここが自分の幸せになれる場所なのだと思った。
「一緒に、幸せになろうね……」
佳音は、自分のお腹に向かって囁きかけた。
この子を育てていくのは、一人きりだけど、この子が生まれてくれれば二人で生きていける。誰よりも愛しい和寿の分身が、いつも側にいてくれる……。
そう思うと、佳音はもう何も怖いものはなかった。この子のためにも、もっと頑張ろうと思えた。
しばらく経ったある日のこと。
「これ……、いつもおすそ分けをいただいているお礼です。奥さんにでも使ってもらえたら……」
商店街に買い物に出かけた佳音が、そう言いながら魚屋のおじさんに小さな紙袋を差し出した。
「……え?!」
思いがけないことに、おじさんも目を丸くして佳音を見つめ返した。