恋は死なない。
しかし、ここで逃げてしまっては、なんのためにポーチを作って渡したのか分からなくなる。
「それじゃ、お言葉に甘えて。ちょっとだけ……」
佳音は、肩をすくめながらほのかに笑って、そう答えた。すると、魚屋のおじさんも奥さんも、もっと大きな笑みでもって佳音を迎え入れてくれる。
これは、誓いを立てた“強くなる”ための第一歩だった。
――強くなりたい。
お腹の赤ちゃんのために、ただそれだけを思い続けた佳音は、もう自分を憐れんで一人で泣くこともなくなった。
でも、強くなることは、泣かないことでも、意地を張って頑なに生きることでもなくて……。もっとしなやかに、心を開く勇気が持てるように、強くなりたいと佳音は思った。
花屋の店主や八百屋のおばさんにも同じように、技能を生かして、ささやかな物を作って贈った。会うたびに彼女たちから気にかけてもらっていたことは、佳音も気づいていたが、感謝の気持ちを伝えることさえしていなかった。
これからは、できることから少しずつ、返していけたらと思っていた。
佳音は、産科の病院できちんと検診を受けることも欠かさなかった。
いずれお腹が大きくなって、妊娠していることは隠しておけなくなる。そう考えた佳音は、工房にもほど近い便利な場所にある病院へと通うようになった。