恋は死なない。
ドキドキと心臓が不穏に鼓動を打っている。
でも、これは病院を変えた時から、想定していたことだ。この妊娠のことを勘ぐられるたびに怯えていては、ここで生活していくことはできない。
それに、なにも花屋の店主から執拗に詮索されていたわけでもなかった。
――大丈夫。怖くない……。
佳音は自分に言い聞かせた。ここから逃げて、今までと同じことを繰り返してはいけない。
それから、検診を受けて、赤ちゃんが順調だということを確認した後、待合室に戻ってくると、もう花屋の店主の姿はなかった。
詳しい説明ができないままだったが、この妊娠のことをどう解釈したのだろう……。
佳音は深く息を吸い込んで、気を取り直した。
負い目を感じることは、このお腹の子のことを否定していることだと思った。どんなふうに思われようとも、毅然としていようと心に決めた。
こんな些細な出来事を除けば、佳音の生活は、極めて平穏なものだった。
あまり“つわり”の症状も出でおらず、お腹の中に赤ちゃんがいることも忘れてしまうほど。
毎日、真っ白な布地に向き合い、コツコツと作業を積み重ねて、少しずつドレスを作り上げる。
作業に没頭して、時間を忘れてしまうこともしばしばだったが、佳音は工房に籠もりきりになることをしなくなった。