恋は死なない。
以前は、この自分で作った居心地の良い“檻”の中に閉じこもって、外に出るのが嫌だった。必要以上に、人と関わるのが嫌だった。
でも、それはただの我が儘だったと、今は分かる。お腹の子に、同じようになってほしくはない。そのためには、そんな環境の中で子どもを育てるわけにはいかない。
季節が移ろって、秋の色が濃くなっていく。
澄み渡った高い空の下で、外の空気を吸う。色づき始めた木々を見上げながら、ゆっくり散歩する。いろんな刺激を受け止めることで、お腹の子にもそれが伝わっているように感じた。
花屋の店主は、佳音の“妊娠”のことを噂話のネタにはしていないのか、商店街に買い物に出かけても、そのことを指摘されることはなかった。ホッとしている気持ちもあったが、いつまでも隠しておけることでもなく、もどかしい気持ちもある。
そんな感覚を抱えながら、本屋へ定期購読の雑誌を取りに行った帰り、商店街を歩いている時のことだった。
「あら、佳音ちゃん」
また偶然に、花屋の店主に出会ってしまった。実はあれから、花屋からは無意識に足が遠のいていた。
「綺麗な花束ですね」
挨拶よりも先に、思わず佳音がそう言ってしまったように、久々に対面した店主の手には、可愛らしい花束が携えられている。