恋は死なない。
「そうでしょう?魚屋さんの奥さんから頼まれて、今から届けに行くところ。なんでも、お友達が演奏会に出るんですって」
その花束は、演奏会で贈るものというよりも、小ぶりで丸く、結婚式で花嫁さんが持つような可愛らしいものだった。
「そうなんですか……」
けれども、佳音はそれを話題にすることなく、ただ相槌を打つだけだった。人付き合いの苦手な佳音は、こんな時に適当な言葉で会話をつなぐことができない。魚屋へ行く方向と、工房へ帰る方向は同じなので、なんとなく気まずい感じで並んで歩くしかない。
すると、店主の方から話題を振ってくれる。
「この頃、お店の方へ顔を見せてくれなかったけど、体調でも悪かったの?」
佳音は小さく息を呑んで、購入してきた雑誌を、胸に抱えて握りしめた。店主は暗に、“妊娠”のことについても気遣ってくれているようだ。
「体調は、変わりありません。ただ……、お店にはなんとなく行きにくくて……」
当たり障りのない理由を考えるべきだったのかもしれないが、佳音はありのままを答えることしかできなかった。
店主は佳音の返答の意味を探るように、佳音へと視線を向けた。
「……佳音ちゃんが話したくないこと、根掘り葉掘り聞いたりしないわよ?」
心の中を読まれたような気がして、佳音は返す言葉が見つけられず、申し訳ないような表情を浮かべる。