恋は死なない。



すると、店主はフッと笑って息を抜いた。


「佳音ちゃんは、いつもお店に来てくれる大切なお客さんだもの。なにも気にしないで、また顔を見せてね」


佳音は自分の唇と一緒に、この言葉を噛みしめた。
花を見るばかりで、ろくに買い物もしない自分を、こんなふうに言ってくれることが、とてもありがたかった。


「そういえば、佳音ちゃんからもらったポーチね。うちの中学生の娘が使ってるのよ。『かわいいから頂戴』ってね」


それを聞いて、佳音はうれしくなって、パッと花が咲いたように笑った。店主も思わず、その可憐な笑顔に見とれてしまう。


「それじゃ、また今度はお花屋さんの分を作って差し上げます」


「あら?ホント?なんだか、催促したみたいで悪かったわね〜。でも、うれしい」


そうやって和やかな空気になって、会話ができるようになった頃、魚屋へと到着した。
特に買い物もない佳音は、魚屋のおじさんに挨拶だけして帰ろうとした時、


「あっ、佳音ちゃん。そうだった!」


と、おじさんから呼び止められた。


「おい!母さん。この前の雑誌、どこにやった?」


おじさんは、花屋の店主から花を受け取っていた奥さんに向かって、そう投げかける。すると、奥さんも頷いてから店の奥にそれを取りに行った。


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