恋は死なない。
「俺が見つけたんだぜ?佳音ちゃんが知らなかったら、この雑誌あげようと思ってよ。でも、驚いたなぁ!佳音ちゃんの彼氏が、こんな大企業のエリートさんなんてよ!」
魚屋のおじさんが、得意満面の笑みでそう言ってくれる。
「まあ、素敵!未来の旦那様が、こんなすごい人なんて!」
佳音の妊娠のことを知っている花屋の店主は、当然佳音は和寿と結婚すると思っているのだろう。本当に嬉しそうに笑顔を輝かせた。
しかし、佳音は同じような笑顔にはなれなかった。この親切な人たちの誤解を、これ以上聞いていられなかった。
「違うんです……!その人は、彼氏なんかじゃないんです!」
佳音は何度も首を左右に振りながら、いつもに増して大きな声で断言した。
魚屋の夫婦も花屋の店主も驚いたように、激しい言動をした佳音をじっと見つめた。
「え……?じゃあ、別れちまったのかい?」
おじさんが心配そうに、顔色を曇らせる。それを聞いて、花屋の店主はもっと険しい顔つきになった。
「別れるとか、そういうこと以前に、付き合ったりもしていません」
佳音は何とか誤解を解こうと、訴えるように言いながら、首を振り続けた。
そんな佳音を見て、花屋の店主が思わず声を上げる。
「……それじゃあ、そのお腹の赤ちゃんは、誰の子なの……?」