恋は死なない。
振り向いてもらいたい、自分だけを見て、いつもに側にいて愛してもらいたい。古庄に恋い焦がれていた高校生の頃、佳音はそれだけを求めていた。
でも、和寿に出会えて恋をして、佳音は本当に人を愛することを知った。今はただ、和寿に幸せになってもらいたい――、それだけを願っていた。
佳音は目には涙を溜めながらも、あんなに悩んでいたのが嘘のように晴れやかな顔をした。その顔を見て、おじさんはもう何も言えず、佳音と同じようにその目に涙を滲ませていた。
「……その、古川さんって人のことが、本当に好きなのね……」
しみじみと奥さんからそう言われて、佳音は潤んだ目を細め、かすかに笑みを浮かべながらうなずいた。
「大丈夫。佳音ちゃんがその覚悟なら、私たちは協力するだけね。困ったことがあったら、何でも言って。たくさん、おせっかい、焼かせてもらうから」
ニッコリと笑いかけてくれる奥さんの言葉が、佳音に深く染み入ってくる。
「ありがとうございます……」
佳音はもう一度頭を下げながら、心の中でつぶやいた。
――私はこの街で生きていける……。
この親切な人たちに、初めて心を開けたことが嬉しかった。佳音はまた少しだけ、自分が強くなれたような気がした。