恋は死なない。
そのとき、先ほど出て行ったばかりの花屋の店主が魚屋に駆け込んできた。懸命に駆けてきたのだろうか、肩を上下させて息を切らしている。
「……ちょ……、ちょっと!あ、あの……、あの人!!」
喘ぎながら言葉が声にならない店主に、おじさんの方が声をかけた。
「どうしたんだい?そんなに焦って」
「あの人よ。あの人!!」
「あの人じゃ、分かんねーよ。誰のことだよ?」
「あの、さっきの雑誌に載ってた……ふ、古川さん!!古川さんがいた!!佳音ちゃんの工房へ行くところじゃない?!」
「ええっ!?」
おじさんは驚きの声を上げると同時に、店の外に飛び出した。
佳音は、花屋の店主の言っていることがとても信じられず、あまりにも突然のことに体がこわばって動けなかった。
すると、おじさんがすぐさま戻ってきて、佳音の腕を取った。
「佳音ちゃん。来てみてごらん」
佳音は、急かされるように腕を引かれて通りまで出てきた。そして、おじさんが腕を伸ばして指し示している方へと、視線を向ける。
昼下がりの商店街、人が行き交う通りに、こちらに向かって歩いてくるスーツ姿の一人の男性がいる。大きな海外旅行用のスーツケースを引っ張り、もう一方の腕には何やら“白いもの”をぶら下げて。