恋は死なない。
「……一人で、産んで育てていくつもりだったのか……?」
佳音も大きな目に涙を溜めながら、かすかにうなずいた。それを見た和寿はギュッと目をつむって、佳音を懐の奥深くに閉じ込めるように、再び力を込めて抱きしめた。
苦しいほどに抱きしめられながら、佳音は和寿が震えているのを感じた。言葉にならない和寿の想いが伝わってきて、佳音もそっと和寿の背中に腕を回して抱きしめた。
それから、どのくらいの時間が経ったのだろう……。
ようやく和寿が腕の力を緩めて、佳音の顔を覗き込んだとき、佳音はとても幸せそうに微笑んだ。
それは以前、和寿が望んだ笑顔。まるで天使のように純粋で可憐な笑顔だった。
その笑顔を見て、和寿は確信する。自分が佳音を愛しているように、佳音も愛してくれていると。その確信に後押しされて、和寿は言わねばならない一番大事なことを告げる決心をし、佳音にきちんと向き合った。
「佳音……」
名前を呼ばれて、佳音はもっと嬉しそうに和寿を見上げた。
「結婚しよう。今日、今すぐにでも、家族になろう」
そう言うや否や、和寿は佳音の返事さえも待たずに、その手を取って動き出した。
さっき脱いだばかりの靴をまた履くと、工房の鍵をかけ、アパートの階段を佳音の手を曳いて駆け降りる。