恋は死なない。
「……どこに行くの?」
佳音は和寿の行動の訳が分からず、足早に先を急ぐ和寿の後ろ姿に問いかける。
「区役所だ。婚姻届けを出すんだよ」
「……えっ!?婚姻届け?今日?!」
驚きのあまり、佳音もひっくり返った声を出す。すると、和寿は逸る気持ちを抑えることなく、佳音に振り返った。
「そう、今日!君を一刻も早く、僕のものにする!」
その和寿の晴れやかな笑顔。自分を縛り付けていたものから解き放たれて、やっと自由になれたように輝いていた。
佳音も同じように、自分の前に拓けている未来に心が逸った。今まで感じたことのない幸せを噛みしめて、それが逃げていかないように和寿の手をギュッと握り返した。
その日は、それからが忙しかった。
区役所へ婚姻届けの用紙を取りに行き、魚屋の夫婦に保証人になってもらうべく魚屋へと向かった。
「今日、いきなり婚姻届かい?」
と、目を丸くしている魚屋のおじさんを尻目に、そこで婚姻届けを書かせてもらう。すると、和寿も佳音も印鑑を持っていないことに気づき、和寿は商店街にある文房具屋まで走った。戻ってきた和寿の息が整うのも待たずに、慌ただしく判を押すと魚屋を出て、また区役所まで行き、ようやく届けを出せた。