恋は死なない。



数ヶ月の月日をかけ、最高級の素材で作り上げられたそのドレスは、かつて佳音自身が言っていたように、本当に“最高傑作”だった。本来ならば、もうとっくに花嫁と共に祝福を受けているべきなのに、結局日の目を見ることなく、ここへと戻ってきてしまっていた。



「おはよう、佳音」


和寿に声をかけられて、佳音は光の中から振り向いた。


「……おはよう」


と、挨拶をしながら、少し恥ずかしそうにして微笑む仕草が、なんとも言えず可愛らしい。
昨夜あれだけ愛し合ったのに、また和寿はその笑顔に引き寄せられて、佳音を抱きしめてしまう。
二人の唇が重なって、そのキスが深まってしまう前に、佳音の方があごを引いて、キスを中断した。


「あの……、あなたに抱きしめてもらえたり、キスしてもらえるのは、夢みたいに嬉しいの。……だけど、今日は私、仕事をしなくちゃいけなくって……」


やっと想いが叶って、これまで思い描くことしかできなかった人に触れられることは、思いもよらないほどの喜びをもたらしてくれるが、いつまでも二人だけの甘い時間に浸ってもいられない。
“生活をしていく”という現実は、明るい朝とともにやって来てしまった。


< 233 / 273 >

この作品をシェア

pagetop