恋は死なない。



「布団を?」


「うん、君のお腹が大きくなれば、君にはゆっくり寝てほしいし。かと言って、ここにもう一つベッドを置くのも無理だろうし」


和寿にとって佳音のお腹にいる赤ちゃんのことは、想定外のことだったはずなのに、和寿は佳音以上にいろいろと考えて、あれこれ算段を立ててくれる。


「君の中に僕の一部がいて、一つの命になって生まれてくるなんて、本当にすごいことだよ。早く僕たちの子どもに会いたいな」


こんなふうに喜んでくれることに、佳音の胸はいっぱいになって、和寿を見上げたまま言葉を返せなくなる。
和寿は目を潤ませる佳音を見て、真顔になった。いとおしむようにそっと佳音の頬を撫でて、薄暗闇の中でしみじみと見つめ続けた。


「……佳音。今、幸せかい?」


和寿の優しく深い声色。
その言葉が心に沁みて、佳音は問いかけに答えるどころか、とうとう涙を溢れさせた。何も言葉にならず、和寿の懐にもぐり込んで、ギュッとしがみついた。


幸世の婚約者だった和寿を、ただただ想い続けていたころ、こうやって抱きしめてほしいとずっと思っていた。
一人で子どもを産んで育てていこうと決意した後も、こうやって和寿に側にいてほしいと、ただ願い続けていた。


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