恋は死なない。
来訪者
向けてくれる佳音の笑顔に、ほのかな陰りがある。
佳音の中に宿ってしまった微かな影に起因する、この微妙な変化に和寿が気づいたのは、一緒に住み始めて1週間が過ぎようとしていた頃だった。
「……僕が四六時中一緒にいたら、もしかして居心地悪い?」
午後からの作業を一休みして、お茶を飲んでいるときに、和寿は思い切ってその気がかりを切り出した。
思いがけないことを聞かれて、佳音はその問いの意味を聞き返すように、目を丸くして和寿を見つめ返した。
「君はずっと一人でこの工房を切り盛りして、自分のペースでやってきただろう?いきなり僕が居座ってしまって、やりにくいんじゃないかい?」
和寿の杞憂に、佳音はとっさに首を横に振った。
「私はあなたが側にいてくれるのを、ずっと望んでたのに……、居心地悪いなんて……」
そんなふうに言っていても、佳音の表情の薄い曇りは晴れず、和寿は釈然としないながらもうなずくしかない。
「……なら、いいんだけど」
それならば、佳音の抱えているものはなんだろう……。それを考えながら、和寿がテーブルの向かいに座る佳音を見つめていると、佳音は落ち着かなげに、工房のマネキンに着せられたままになっている幸世のウェディングドレスに目を遣った。