恋は死なない。
深刻な事態になりつつあった空気から現実に引き戻されて、佳音は戸惑いながらも息を大きく吐く。それから、涙が滲んだ目を和寿と合わせることなく、テーブルに手をついて立ち上がった。
「いらっしゃいませ」
そう言いながら玄関へ向かうと、そこには大きな花束を持った女性が立っていた。
「こんにちは」
ニッコリと笑いながら挨拶をしてくれるその女性を見て、佳音は立ちすくんで何も反応できなくなった。
玄関口で何も物音がせず、佳音も戻ってこない。不審に思った和寿も席を立って、玄関口へ出てくる。
「佳音?どうした?お客さん?」
言葉をかけながら、佳音の背中越しにその来訪者を確認して、和寿も佳音と同様に硬直した。
「古川くん。やっぱり、ここにいたわね」
花束を抱えた幸世は、そんな和寿の姿を確認すると、したり顔をして不敵に笑った。
「君こそ、なんでここに?!」
幸世の余裕に引き替え、和寿の表情はあからさまに険しくなった。