恋は死なない。



結婚式もずいぶん前に取りやめになって、幸世がこの工房を訪れる必要なんてないはずだった。もしかしたら幸世は、傷つけられた“仕返し”をしに、ここに来たのかもしれない……。そんな危惧が、和寿の中によぎった。


「あなたが会社を辞めてから、ケータイの番号もアドレスも変えてしまってて、“行方不明”になったって会社内じゃ噂になってるみたいよ。でも、私はここじゃないかってピンときたの。それで、確かめに来たってワケ。……上がらせてもらって、いいかしら?」


和寿と幸世のやり取りに聞き入っていた佳音は、その幸世の一言に不意を突かれて我に返った。佳音が来客用のスリッパを取り出して並べると、幸世はそれを履いて、かって知ったる工房の中へと、和寿の横をすり抜けて進んでいく。


工房の中には、幸世が結婚式で着るはずだったウェディングドレスが、マネキンに着せられて置かれていた。
幸世の理想を具現化したウェディングドレス。それは幸世にとっても、そうとうに思い入れのあったものに違いなかった。


「……僕がここにいるって、どうして君には分かったんだ?」


懐かしそうにしみじみとドレスを眺めている幸世に、和寿が声をかけた。


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