恋は死なない。
「……君は、僕たちを出会わせてくれた恩人だよ」
ピクリと幸世の背中が反応して、和寿の言葉を噛みしめるように、そのままじっと動かなくなった。けれども、幸世はすぐにその呪縛を振り切るように、二人に向き直った。
「……古川くん。気をつけてあげた方がいいわよ」
いきなり幸世から脈略のないことを言われ、その意味が分からず、和寿が首をひねる。
「……?何を?」
当然の疑問を聞いて、幸世はまた不敵な笑みを浮かべた。
「森園さんの、首筋。キスマークがついてるわよ」
「えっ……!!?」
和寿が佳音の首筋に目を遣るのと同時に、佳音もそこを両手で押さえた。真っ赤な顔になった二人の視線は、お互いの顔の赤さを確かめ合った後、きまり悪そうに幸世に戻ってきた。
「……ウソよ」
と言うのと同時に、幸世は湧き出してくるものを抑えられず、高らかに笑った。そのまま、朗らかに笑いながら工房の玄関のドアを開けると、輝くように明るい人は「さよなら」も言わずに出て行った。