恋は死なない。
「よっ!新婚さん。調子はどうだい?」
商店街を歩いていると、いつものように魚屋のおじさんから声をかけられる。
「見ての通り、順調です」
こんなとき、なかなか気の利いた言葉が出てこない佳音の代わりに、和寿がニッコリと微笑みながら、二人がつなぐ手を掲げて見せた。
「これは、これは、当てられちゃって、かなわねーや!」
魚屋のおじさんはそう言って笑いながら、優しい眼差しを佳音に注いでくれる。
「舌平目はありますか?ムニエルを作ろうかと思ってるんですが」
「舌平目は夏の魚だからなぁ。今の時期はないんだよ。ムニエルにするんだったら、普通のヒラメでも美味しいよ?」
そんな会話を交わしながら買い物をする和寿は、もうすっかり馴染んでいるようだ。
「料理上手の亭主を持って、佳音ちゃん、ラッキーだったな!」
おじさんからそう言われて、料理が苦手な佳音には、返す言葉が見つからない。でも、おじさんの言うとおりだった。和寿は本当に料理が上手で、いつも佳音を喜ばそうと工夫してくれた。
それから、二人の足は申し合わせていたわけでもなく、自然と花屋へと向かう。
「佳音。お花屋さんには、こっちを通ると近道だよ」