恋は死なない。



「都会の中にあるのに、まだ地域の人々のつながりが残ってて。緑も多くて、窮屈じゃなくて。何よりも君がいるから、僕にとっては特別な街だよ。君とっても、夢を叶えられた特別な街だろう?」


佳音は和寿から見つめられて、ただ黙って頷いた。

この街での生活は、あのアパートの部屋を借りたときから始まった。それから工房を立ち上げて、無我夢中になって働いて、なんとか工房を軌道に乗せた。それはまさしく、ずっと佳音が思い描いていた“夢”だった。



「……和寿さんにとっても、夢を叶えられる街になる……?」


佳音は思い切って、和寿の夢のことについて、話題を切り出してみる。すると、和寿は佳音を見つめたまま、穏やかに微笑んだ。


「……僕は“夢”と言っても、高みを目指したり、多くを求めたりはしないよ。ここで君と一緒に子どもを育てて、そんな生活をゆっくり味わいながら歳が重ねられたら、それだけで幸せだよ」


和寿のそんな言葉を聞いて、佳音の胸がキュッと絞られた。嬉しいというよりも、言いようのない切なさがこみ上げてくる。
もちろん、そんなふうに和寿と暮らしていけたら、佳音もどんなに幸せなことだろうと思う。
しかし、佳音は和寿と同じように、穏やかな表情はできなかった。


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