恋は死なない。



「君とお腹の子どものために生きることは、犠牲なんかじゃないよ」


その和寿の微笑みは、作り笑いではなかったが、そんな優しい言葉を聞いても、佳音はいっそう胸が痛くなった。


「でも、あなたの夢はどうなるの?思いのままに、自分の人生を生きたいって決意したから、会社を辞めて、両親と決別してまで、私と生きることを選んでくれたんでしょう?」


堪えきれずに、佳音の目から涙がこぼれ落ちた。
和寿は、こんな佳音を心配させたくなかったからこそ、いつも優しさと笑顔で包んであげようとしていた。しかし、そんな自分の心を押し殺す様子を、繊細な佳音が気づかないわけがない。
和寿はもう、自分自身さえ気づかないふりをしていた本音を、隠しておけなくなる。


「……自分の夢を追って、君と子どもを不幸にするんじゃないかって、思うんだ。僕がやろうとしていることは、見通しが立たないし、リスクもある。採算だって取れるか分からない……」


それは、ビジネスマンだった和寿ならではの考え方だったのだろう。けれども、つぶやくように発せられた和寿の言葉を聞いて、佳音は顔色を変えた。
涙が溢れる目で和寿を見上げ、その強い視線は和寿を貫いた。


「そんなものを怖がっていたら、夢なんか一生叶わない。叶えたいと思ったときに動き出さないと、きっとそれは夢のままで終わってしまう」


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