恋は死なない。
あんなに素敵な花束を贈られても喜ばないなんて、幸世は本当に満たされて生きてきた人なんだと、佳音は思う。
佳音ならば、あんな花束でなくても、その辺の道端に咲いている花を手折って渡されても嬉しく感じてしまうかもしれない……。
佳音が考え込むように黙ってしまったので、和寿は気を取り直す。
「ドレス作りは順調に進んでいますか?もうすぐ出来上がりそうですか?」
何も知らない素人ならではの質問に、佳音は思わず表情を緩めてフッと息をもらした。
「とんでもない。まだまだ時間がかかります。まだ1回目の仮縫いが終わったばかりですので、パターンを修正してから2回目の仮縫いをして…。それで何も問題がなければ、やっと幸世さんが注文した生地で本縫いに入ります」
ドレスのことになると、やはり饒舌になる佳音の言葉に、和寿は嬉しそうに耳を傾けた。
その時、他の客が二人に遠慮しつつも、その間を割るように手を伸ばし、そこに並べられている雑誌を手に取った。
二人は同時に、自分たちが邪魔になっているのだと察する。
「…ここで立ち話もなんですから、場所を替えましょう。近くにカフェなんか、ありませんかね?」
そう和寿から持ちかけられて、思わず佳音は身構えた。
幸世のいないところで、二人でお茶なんて飲んでいいのだろうか…と。