恋は死なない。



けれども、二人はこの場でそのことは話さなかった。
苦しいことや辛いことは、自分たちの胸の中にしまいこんで、今日はただ夢が叶えられた喜びを味わいたかった。


乾杯の音頭は、魚屋のおじさんがしてくれる。いつも店番をする時とは違い、今日はスラックスとブレザーという少しお洒落な装いだ。飲み物を注いだグラスを掲げると、佳音と和寿に向き直った。


「佳音ちゃん、和寿くん。それに、寿音ちゃん。君たちがこの三年間、ものすごく頑張ったのは、ここにいる誰もが知っている。だから、今日のこの日を迎えられて、俺たちも本当に嬉しいよ!これからも、どんどん盛り立てていくからね!本当におめでとう!!……乾杯!!」


「乾杯!!」


皆が声をそろえたその一言と共に、楽しい時間が始まる。
佳音と和寿は、お祝いを受けている側にもかかわらず、テーブルと厨房とを行き来して接待することに徹し、座る暇もなかった。

それでも今日は、自然と笑顔が溢れてくる。佳音と和寿は時折視線を交わしては、今日の喜びを分かち合い、嚙みしめた。


そして、いよいよお待ちかね。和寿が丹精込めて作り上げた“自慢のケーキ”が運ばれてくると共に、歓声があがる。


「ケーキは、ビュッフェ方式です。お好きなものを、いくつでもどうぞ」


“ビュッフェ”と聞いて、特に女性たちや子どもたちの目がいっそう輝く。



< 267 / 273 >

この作品をシェア

pagetop