恋は死なない。



並べられているケーキたちは、見た目の技巧を凝らしているわけでもなく、極めてシンプルでオーソドックスなものだったが、どれも素材から和寿が吟味し、試行錯誤を繰り返して作り上げたものだった。


「もう、彦真。取りすぎよ。そんなに食べられないでしょう?」


「だって、兄ちゃんだって、三つ取ってるんだから、俺も!」


「彦真兄ちゃん、四つも取ってるよ」


「えっ!?」


ケーキに集まる人の中から、そんな会話が聞こえてきて、佳音は嬉しそうに顔をほころばせた。
飲み物を給仕し終えた和寿も、息をつきながら佳音の隣へやってきて、店内の和やかな雰囲気を見渡した。


「おとーさん、寿音も、ケーキ!」


そこに、みんなから引っ張りだこだった寿音が、和寿の足元にやって来て言った。


「分かった。寿音はどのケーキがいい?」


「白いケーキ。イチゴのケーキ!」


「よし、分かった。取りに行こう」


と、和寿は寿音の手を引いて、ケーキのあるテーブルへと向かう。
寿音は皿にイチゴのショートケーキを載せてもらうと、そろりそろりと歩いて、佳音のもとに戻ってきた。

空いていた窓辺のテーブルを囲んで、親子三人で腰を下ろす。
口の周りをクリームだらけにして、ケーキを食べる寿音を、佳音も和寿も愛おしそうに見つめた。


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