恋は死なない。
あの大らかな幸世ならば、そのくらいのことを気にすることはないかもしれない…。…でも…。
「あの…、私。今は工房を開けてる時間で、少し抜けて来ているだけなんです。…だから、あまりゆっくりはしてられなくて…」
佳音のつれない返答を聞いて、和寿は一瞬肩をすくめたが、すぐに思い直したように微笑んだ。
「それじゃ、工房にお邪魔させてもらっていいですか?ドレスの進捗状況も知りたいし…」
そう言われてしまうと、佳音にも断りようがない。ドレス制作の進み具合をきちんと報告するのも、依頼主に対する義務の一つだ。
「…分かりました。ちょっとお待ちください。注文している雑誌を買ってきますので…」
佳音はそう言うと、軽く会釈してレジへと向かった。
本屋を出ると、佳音も誘われた初夏の爽やかな風が、二人を待ち構えていた。並んで歩いている二人の間のぎこちない空気も、その風が吹き流してくれるようだ。
「今日は、本当に気持ちのいい日ですね。だから、ちょっと足を延ばして、この辺まで散歩してきてしまいました」
いつもの商店街を歩きながら、和寿は気を遣ってくれているのか、当たり障りのない話題を振ってくる。