恋は死なない。
「君の工房も、ここからまた新たな門出だね」
「……前の工房を引き払ってしまうのは、ちょっと寂しかったけど。ここは作業場は広いし、収納もたくさんあるし」
佳音は肩をすくめて、小さく笑った。
佳音の夢を叶えたのも、最愛の人和寿に出会えたのも、初めて結ばれたのも、あの佳音の小さな工房。たくさんの大切な思い出が詰まっていた。
佳音の心と共鳴するように、和寿もじっと佳音を見つめて物思いをする。そして、改るように佳音へと向き直った。
「それじゃ、この新しい工房での最初の仕事だよ。僕からの依頼を受けてくれるかい?ウェディングドレスを一着、作ってほしいんだ」
思いがけないことに、佳音が目を丸くする。
「どなたか、知り合いに頼まれたの?」
佳音の問いかけに、和寿は微笑みながら首を左右に振った。
「僕の最愛の妻のドレスだよ。君のためのドレスだ」
佳音は目を丸くしたまま、和寿を見つめて動けなくなった。
「そのウェディングドレスが出来上がったら、ここにいる人たちや、君や僕の両親にも来てもらって、結婚式を挙げよう。君はいつも人のドレスを作って、人を綺麗に見せることに一生懸命だけど、本当に世界一綺麗なのは僕の花嫁さんだって、みんなに知ってもらうんだ」
瞳と唇とを震わせるばかりの佳音に、和寿はそう言ってニッコリと微笑んでくれる。