恋は死なない。




「…こっ!この人は、彼氏なんかじゃなくて、お客さんです!」


佳音が焦ったように、おじさんの勘違いを訂正すると、おじさんは目を丸くして和寿を見つめた。


「へえ?お客さん?!男なのに、ウェディングドレスを着るのかい?」


ケラケラと笑いながら、佳音にアサリを渡してくれる。そんなおじさんに、和寿も可笑しそうにククク…と笑いを漏らした。


「…ありがとうございます」


笑えないのは、佳音だけ。
おじさんの好意は嬉しかったが、和寿が気を悪くしていないか、それだけが心配だった。



「荷物が多くなりましたね。持ちましょう」


花屋で買った苗に、もらったベルフラワーの束。本屋で買った分厚い雑誌に、アサリの袋。確かに細々したものばかりで、腕がもう一本ほしいくらいだった。


「いえ、大丈夫です」


当然、佳音はそう言って断ったが、和寿は何も言わずに手を差し出し、一番大きくて重い花苗の袋を、佳音の腕から外した。


「…ありがとう…ございます」


こんな優しさをかけられると、心が苦しくなる。

和寿の気遣いや優しさは、佳音にとって、商店街の人々からもらうものとは異質だった。



工房に帰ってくると、佳音は作業に取り掛かる前に、台所へ行ってお茶を淹れる準備を始める。



< 29 / 273 >

この作品をシェア

pagetop