恋は死なない。
「…こっ!この人は、彼氏なんかじゃなくて、お客さんです!」
佳音が焦ったように、おじさんの勘違いを訂正すると、おじさんは目を丸くして和寿を見つめた。
「へえ?お客さん?!男なのに、ウェディングドレスを着るのかい?」
ケラケラと笑いながら、佳音にアサリを渡してくれる。そんなおじさんに、和寿も可笑しそうにククク…と笑いを漏らした。
「…ありがとうございます」
笑えないのは、佳音だけ。
おじさんの好意は嬉しかったが、和寿が気を悪くしていないか、それだけが心配だった。
「荷物が多くなりましたね。持ちましょう」
花屋で買った苗に、もらったベルフラワーの束。本屋で買った分厚い雑誌に、アサリの袋。確かに細々したものばかりで、腕がもう一本ほしいくらいだった。
「いえ、大丈夫です」
当然、佳音はそう言って断ったが、和寿は何も言わずに手を差し出し、一番大きくて重い花苗の袋を、佳音の腕から外した。
「…ありがとう…ございます」
こんな優しさをかけられると、心が苦しくなる。
和寿の気遣いや優しさは、佳音にとって、商店街の人々からもらうものとは異質だった。
工房に帰ってくると、佳音は作業に取り掛かる前に、台所へ行ってお茶を淹れる準備を始める。