恋は死なない。
不意に和寿から声をかけられて、佳音が目を上げる。気が付かないうちに、和寿はパターンを引くテーブルの横まで来て、そこに立っていた。
「…これは…」
佳音は口から心臓が飛び出してきそうなほど驚いていたが、努めて冷静を装って、説明を始める。
「先日、幸世さんに仮縫いのドレスを試着してもらって見つかった修正点を直しているところです。こうやってもう一度、製図をし直して、それをもとにもう一度仮縫いのドレスを制作します」
和寿は頷きながら、マネキンに着せられた仮縫いのドレスの一部に目を移した。
「こうやってピンを打って、細かく修正していくんですね」
「そうしないと、オーダーメードの意味がありませんから」
和寿は佳音の言うことにさも納得したように、パターンへと目を落とした。
「それじゃ、今のこの作業は一番重要なところなんですね」
「そうです。今は、パソコンでもパターンが描けて便利なんですけど、私はこっちの方が好きなんです」
普通の雑談をする時に見せる戸惑った様子とは違う、佳音の明快な受け答えに、この仕事に対する自負心がかいま見える。
それを頼もしく感じて、和寿はおのずと柔らかい笑顔になった。
「邪魔してはいけないとは思うのですが、作業をもうしばらく拝見してもいいでしょうか?」
「……はい」
と、佳音は了承したものの、和寿がいると集中できないので、「もう帰ってほしい…」と思っているのが佳音の本音だった。