恋は死なない。
和寿は先ほど紅茶を出されたテーブルに戻って、そこが定位置とばかりに椅子に座り、落ち着いている。
佳音もしょうがないと思い、心の中でため息をつく。
どこまで作業を進めたのか…と、考えながら佳音が再びパターンに目を落としたところで、和寿がテーブルに着いたまま、また口を開いた。
「……こうやって、あなたが作業をしているところを見ていると、子どもの頃を思い出します。僕の母は手芸の好きな人で、よく僕や兄のセーターなどを作ってくれていました。母の手の中で、何もないところから少しずつセーターや手袋が形を成していくんです。それがとても不思議で面白くて…、時間を忘れて見ていました」
和寿がそう語るのを聞いて、佳音は納得した。和寿がじっと自分を見つめるのは、自分の母親と重ねているのだと。
そして、物が作り上げられていく過程の面白さに共感し、理解してくれていることが、少し嬉しかった。
「…古川さんの子どもの頃は、大人しいお子さんだったんですね」
思いかげず、佳音の方から話題を振られて、和寿は目を丸くする。
「いいえ、ごく普通の男の子だったですよ。兄ともよくケンカをして叱られましたし」
「…でも、男の子がそんな風に、お母さんが手芸をしているのをじっと見ているなんて、あんまり想像つきません」