恋は死なない。
出しっぱなしの食器や調理器具を片づけて、食器棚の中も簡単に整理する。調味料の類もきちんと並べ直して、コンロ周りや調理台を布きんで拭き上げる。
冷蔵庫の中もチェックをして他人に見られてもいい状態にし、モップを持ち出して来てキッチンの床も拭いた。
ひと段落ついた時には、息が上がり、胸は激しく鼓動を打っていた。
何もするべきことが見つからなくなっても、気持ちは落ち着かず、仕事を再開しようにも手に付かない。呼吸が元に戻っても、胸の鼓動はいつまでも大きく乱れていた。
太陽が大きなビルの向こうに消えて、日が当たって明るかった玄関も陰って、ひっそりと寂しさが漂い始める。
和寿が戻ってくる気配はなく、佳音の心は違った意味で落ち着かなくなる。
やっぱり、和寿はそのまま帰ってしまったのではないか……と。
佳音はそう思って初めて、自分が和寿の楽しい申し出に心が浮き立って、一緒に食事をすることを心待ちにしていたのだと気がついた。
でも、それはとんでもない勘違いなんだと思い直す。
自分は婚約者のドレスを作っているだけのただの職人で、和寿にとっては親友でもない。そもそも、和寿は住む世界の違う人間で、自分は取るに足らないような存在のはずだ。
両親にも愛してもらえないこんなつまらない自分を、和寿に限らず誰も本気で相手にしてくれるはずがない。