恋は死なない。
佳音は、ガラスのドアの外に和寿の姿が見えるのをじっと待ち続けていたが、ドアを見つめながらギュッと唇を噛んだ。
古傷のように心に痛みをもたらす、言いようのない寂しさが佳音を襲い始めて、押しつぶされそうになる。
目が涙でジワリと潤んできて、もう待つのはやめようと作業台に視線を移した時、工房のドアがパッと開いた。
「すみません。遅くなりました。慣れない場所での買い物に、思ったより手間取ってしまって…」
和寿が戻って来てくれて、心にまとった氷の鎧が融けて、佳音はホッとしていた。たとえ口約束でも、和寿がそれを破ってしまうような人間だとは思いたくなかった。
「それじゃ、台所お借りします。出来たらお呼びしますから、森園さんはお仕事を……いや、もうお仕事は切り上げて休んでてください」
和寿はキッチンの調理台の上に買ってきた食材を並べながら、カウンター越しに声をかけてくれる。
そう言われても、お客の和寿を働かせて自分の方がゆっくりしている…なんて、佳音にはできなかった。
「それじゃ、私の方は…さっき買ってきた花の植え替えをさせてもらいます」
和寿が戻ってこないと思った時は寂しく感じていたのに、こうやって二人でいると、少し息苦しい。
佳音はそう言って笑顔を作ると、部屋の隅に置いてあった花の苗の袋を持って、和寿と入れ違うように表に出た。