恋は死なない。



しばらくして、佳音はダイニングに姿を現し、今日花屋でもらったベルフラワーを活けた小さな花瓶を、そっと食卓の真ん中に置いた。
和寿がしてくれていることへの“お返し”には到底ならないけれども、和寿をもてなしたいという佳音の、せめてもの気持ちだった。

その白く可憐な花を見た和寿は目を細め、いっそう穏やかな表情を見せてくれる。


「…それじゃ、食べましょうか」


佳音が席に着くのを待って、和寿は手を合わせた。


「…いただきます」


佳音も手を合わせ、久しぶりに心からその言葉を唱えた。



自分から作ると言い出すだけあって、和寿の作った料理たちはどちらも絶品だった。普段、料理をしなれない佳音が作る適当なものとは大違いだ。そもそも、アサリをもらっても佳音ならばどうやって調理しただろう…。


「とても美味しいです。こんな、食事らしい食事、久しぶりです。本当にありがとうございます」


少し食べたところで、佳音が改まって和寿にお礼を言った。
向かいに座って食べていた和寿も手を止めて、佳音に目を合わせる。


「こんなもので良ければ、また作ってあげますよ」


和寿は笑顔でそう言ってくれたが、佳音は戸惑ってしまう。



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