恋は死なない。
「また」と言う和寿の思惑は、どんなものなのだろうかと。…婚約者の幸世がこのことを知ったならば、どう思うだろうかと。
…そして、「また」こんな機会が、果たしてあるのだろうかと。
そんなことを考えて、佳音のフォークを持つ手が止まっていた時、玄関のドアが開いて、カノンのオルゴール音が聞こえてきた。
「…こんな時間に、お客さん?」
和寿に訝しがられて、佳音が時計に目をやると7時を少し過ぎた頃だった。
工房を閉めるのを忘れていたと思いながら、玄関口まで向かってみると、そこには見慣れた男が立っていた。
その男を一目見て、佳音の心に不快の影が差す。
「何か御用ですか?」
愛想笑いも見せず、その心を映して険しい顔をしてみせる。けれども、その男はそんなことはお構いなしに、ニヤッと佳音に笑いかけた。
「佳音ちゃん、これ差し入れ。飯まだだろ?一緒に食べようよ」
そう言って、何やら入っているレジ袋を差し出し、靴を脱いで上がり込もうとする。
「とんでもない!」と心の中で叫びながら、佳音は身の毛をよだたせ、その男の行動を遮った。
「今、来客中なんです。食事ももう食べてますから、今日は差し入れも結構です」
「えっ、でも。差し入れ、せっかく持ってきたのに…」