恋は死なない。
「高校2年生の時の担任の先生です。…ご想像の通り、生徒や同僚の先生方からものすごくモテてましたけど、花嫁になったその先生と本当に心の底から愛し合っていました」
そう語る佳音の目が、少し切なくなってしまったのを、和寿は見逃さなかった。
「森園さんも、この先生を好きだった女子の一人だったんですか?」
和寿にとっては、半分くらい冗談のつもりの、軽い話題をふったつもりだった。しかし、その途端、佳音はその表情をもっと切なくさせ、唇を震わせた。
自分の冗談が図星だったどころか、切なく辛い恋を思い出させてしまったことに、和寿の心は罪悪感に侵されてチクリと痛んだ。
「……すみません。なんか僕、余計なことを言ってしまったみたいで…」
和寿が申し訳なさそうに、目を伏せて表情を消沈させたので、佳音は和寿が気にしないように振る舞う必要に駆られた。
「いいえ、古川さんの言う通りです。私も先生のことを好きな一人だったんですけど…、私は大勢の中の一人にはなりたくなくて、先生の特別なたった一人になりたくて…、ずいぶん先生を煩わせて困らせてしまいました…」
和寿は佳音が話してくれることを静かに聞いて、佳音に共鳴するように相づちを打ってくれる。