恋は死なない。
「…それがきっかけになって両親は離婚して、母親に引き取られても私は放っておかれて…、この時の私は、心も生活も本当に荒れていました……」
「……そうだったんですか……」
和寿は納得するように相づちを打ったが、それから何と言って言葉をかけていいのか分からないようだ。
すると、佳音は自分だけでなく、和寿をも励ますように静かに笑ってみせる。
「寂しさを埋めるように先生に恋をしても、先生には心から愛する人がいて、当然受け入れてもらえなくて…。でも、先生の奥さんも同じ学校の先生だったんですけど、この二人は本当に親身になって私のことを支えてくれました。…それで、私は立ち直れたんです」
佳音は自分が淹れたコーヒーのカップを手の中に包み込んで、それを見つめながら淡々と過去を語る。
和寿も、コーヒーを一口含んでその時の佳音の境遇に思いを馳せた。
「そんな気持ちがあったから、好きな人の花嫁になる人なのに、その先生のために森園さんはドレスを作ることができたんですね…。それから、今はこうやってご自分で工房までお持ちになって…、ずいぶん頑張られたんでしょうね」
和寿がそう言って労いの言葉をかけてくれたので、佳音は苦くほのかに笑って、首を横に振った。