恋は死なない。
ここは、工房とはいえ、佳音の家でもある。工房と生活の場と、別々に借りる余裕なんて当然あるはずもないので、アパートの部屋の大部分を工房に当て、佳音はその片隅でささやかに暮らしていた。
「……これは、もうちょっと、こうした方がいいかな……?」
幸世のつぶやきが聞こえてきて、そちらの方へ目をやると、婚約者の和寿は幸世の横からじっとその様子を窺っている。
彼は、先ほどの幸世と佳音がやり取りをしている間も、意見を発することもなく、ただ黙って側に座っているだけだった。
「…どうぞ」
和寿の前に紅茶を置くと、和寿が顔を上げて、佳音の顔をじっと見つめた。優しげな目から注がれるその視線の深さに、佳音は戸惑ってしまう。その視線の意味を問うように、首をかしげてほのかに笑った。
すると、佳音のその仕草を見て、和寿の方が焦ったように反応した。
「…あ、ありがとうございます」
軽く頭を下げると、ぎこちなく視線を再び幸世の手元に移す。
そんな和寿を訝しく思いながら、佳音は幸世の方に声をかけた。
「それでは、絵が出来上がりましたら、お声をかけて下さい」
幸世が顔を上げて頷くと、佳音は途中になっていたドレスの仕上げの作業を再開させた。