恋は死なない。
「いいえ、父も今はもう新しい家族もいて、相手の方の連れ子を育てているそうです。連絡も取り合っていません。…でも、あの時『養育費代わりだ』と言ってお金を出してくれました…それだけで感謝してるんです」
和寿はただ黙って、佳音の語ったことを噛みしめていた。
今の佳音の境遇を思いやると、かけてあげる言葉が出て来なかった。
そして、和寿自身の中にある一つの出来事を、どうしても佳音に話しておきたくなった。
「……実は僕も、高校1年生の時に、事故で兄を亡くしています」
何気なく持ち出されたその事実は、佳音の耳から全身を貫いた。息を呑んで、佳音も和寿の顔を凝視する。
佳音の驚いた表情を確かめてから、和寿は静かに話し始めた。
「両親も自慢の、とても優秀な兄でした。先ほど話に出たK大学にも合格して、入学式を待つばかりの頃でした。交通事故で…。もちろん僕も悲しかったですが、両親は立ち直れないほど悲嘆にくれていました。それで僕は思ったんです。両親を悲しみから救うためには、自分が頑張るしかないと…」
佳音は和寿をじっと見つめたまま話を聞いて、呑んでいた息を少し抜いた。
「……古川さんは、立派ですね。そんな風にご両親を思いやってあげられて…。私も少しはそう出来ていたら、私の家族もバラバラにならずに済んだのかもしれません…」