恋は死なない。
和寿が淡々と語る話を聞きながら、佳音はいろいろと考えてしまって何も言葉を返せなくなった。
結婚を目前にして絵に描いたような幸せの中にいるというのに…、相手の幸世はあんなに幸せそうに笑っているのに…、この和寿は満足していないのだろうか…。
和寿の求める本当の幸せは、別のところにあるのだろうか…。
そんなことを考えている佳音の心を映して、その表情が複雑に曇っていくのを見て、和寿はそれを散らすように息を抜いてみせた。
「さあ、すっかり長居をしてしまいましたね。森園さんはお仕事でお疲れのところ、申し訳ありませんでした。今日はこの辺で、帰ります」
打って変わった和寿の明るい声に、佳音も少し気が紛れてほのかな笑顔が戻ってくる。
席を立って玄関に向かい、靴を履く和寿の後姿に、佳音は勇気を振り絞って声をかけた。
「あの、お食事をご馳走して下さって、ありがとうございました。…本当に美味しかったです」
和寿は振り返って佳音の言葉を素直に受け止めて、嬉しそうに微笑んでみせた。
そして、その微笑みのまま唇を湿らせて、佳音と同じように勇気を振り絞って切り出した。
「…また、ここに来てもいいですか…?」
その言葉の真意を測りかねて、佳音が何も答えずに大きな目で和寿を見つめ返すと、和寿は言い訳をするように言葉を続けた。