恋は死なない。



「副社長さんは、よほど古川さんを見込まれたんですね。将来は会社を背負って立つ人間になさろうとしているんですから」


佳音の言っていることは、暗に幸世との結婚のことを指し示していた。

現実を指摘されて、和寿は考えるように言葉をおいた。
幸世のことを持ち出されると、和寿の表情は、いつも感情を押し隠しているような複雑さを漂わせる。そして、思い切ったように切り出した。


「幸世さんとは、お察しの通り、副社長の計らいでお見合いをしました。もちろん、僕に彼女がいないことなどを確認された上でのことで、無理にさせられたわけではありません。とりあえず付き合ってみることになって、特に何もお互いに対して問題もなかったので、順当に結婚することになりました」


『問題もない』から結婚するというのは、佳音の感覚からすると少し引っかかるものがあったが、ただ頷くだけで話の続きを待った。


「結婚することが決まったと同時に、僕は室長補佐に昇進し、結婚した後は経営者の一員として執行役の一人になることが内々に決まっています。……どこをどう見込まれたのか……。分不相応のことをしているわけですから、本当に必死になって、それに見合った人間になろうと努力しているわけです」


そして、そう言って和寿は笑ってみせた。



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