恋は死なない。




「……古川さんが昔に抱いていた夢は、何だったんですか?今からでは実現できないんですか?」


この問いかけを聞いて、和寿は虚を突かれたように佳音を見つめた。
佳音と目が合うと、うろたえたように目を逸らし、おもむろに立ち上がった。


「そろそろ帰ります。こんな遅い時間に、長居してしまいました」


佳音の質問には答えないまま、和寿は一礼すると玄関へと向かい始める。
この和寿の態度の変化に、佳音は、何か失礼なことを言ってしまったのかと不安に思いながらも、それは口に出せなかった。

すると逆に、和寿は見送ってくれている佳音に玄関先で向き直り、改まって頭を下げてきた。


「……今日は失礼なことを言ってしまって、すみませんでした」


先ほどの会話の中で“失礼なこと”が思い当たらず、佳音が首をかしげて見つめ返す。


「…その、『佳音』と呼び捨てにしてしまったり、…『僕の彼女』だって言ってしまったり…」


そのことを思い出して、佳音の顔が反射的に赤くなった。長い髪を左右に揺らしながら、急いで首を左右に振った。


「いいえ、とんでもない。私は気にしてないので、古川さんもどうぞお気になさらないでください」


佳音がそう言って答えると、和寿も何か言葉を返そうと口を開きかけたが、結局思い止まった。まだ愁いを含んだような和寿の表情に、佳音が投げかける。


「ケーキ、ご馳走してくださって、ありがとうございました」


それを聞いて、和寿の顔にほんのりと明るい笑みが浮かんだ。和寿は再び会釈をすると、背を向けて階段を降りていった。



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