恋は死なない。



その姿を見送って、ドアを閉めて鍵をかける。
居心地のいいこの工房の中で一人になれて、ホッと落ち着いているはずなのに、佳音は自分の胸がドキドキと大きく鼓動を打っていることに気がついた。


『佳音は僕の彼女』……。
とっさについた嘘だと分かっていても、和寿の放ったその言葉は、いつまでも佳音の心の中でこだましていた。


次第に、のど元に苦しさがせり上がってくる。
この感覚は、ずっと前にも経験したことがある。高校生の頃、担任だった古庄が心に過ると、苦しくて切なくて…それでいて少し甘くて…、佳音はいつもこんな感覚になっていた。


佳音は自分の中に湧き起こってくるものを押し止めようと、必死になった。その感情に気づいてしまうと、きっともっと苦しまなければならなくなる。


自分から求めても、相手がそれに応えてくれないと寂しくなる。寂しくなるだけではなく、自分のことを全否定されているように感じて、生きていくことが辛くなる。

古庄のことを心の底から求めていたのに、古庄にはすでに愛する人がいて、佳音の想いを絶対に受け容れてくれなかった。
あの時の絶望感を思い出すと、人を好きになるのが怖かった。あんな混沌とした闇の中でもがき苦しむような思いは、もう二度と味わいたくない。


だからこそ、初めから相手に何も期待をせず、何も求めなくなった。初めから関わりを持たなければ、見放されることもない……。

今のようにこうやって一人ぼっちでいることが、一番心穏やかに生きていけることなのだと、佳音は信じて疑わなかった。






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