恋は死なない。

 抱いていた夢




それから間もない週末のこと、工房の照明のランプが切れてしまったので、佳音は午後から工房を閉めて、商店街にある電器店へランプを買いに出かけた。

週末はたまに、ふらりと予約をしていないお客が訪れることもあるが、この日はあいにく梅雨の雨模様。しとしとと降り続く雨のせいでほの暗いこんな日は、商店街の人出も少なかった。


魚屋の前を通る時、例によっておじさんから声をかけられる。


「佳音ちゃん!この前の彼氏は元気かい?」


しかし、おじさんがかけてくれたこの言葉は、例によらなかった。佳音は顔色を変えて、魚屋へ駆け寄った。


「だからあの人は、彼氏なんかじゃありません!」


佳音が必死になって否定しても、魚屋のおじさんはそれを、佳音が照れているからだと思い込んでいる。


「またまた!惣菜屋の息子の謙次が落胆してたよ。夜遅い時間に男が来て、『彼氏』だって言ってたって。この前一緒だった彼氏だろう?」


それを聞いて、佳音は言葉を逸する。ここで頑強に否定をしてしまったら、この前和寿がついてくれた嘘が無駄になってしまう。


「その彼氏って、前に花束を持ってきてくれた?白い花ばかりの」


横から口を出してきたのは、ちょうどその場に居合わせた花屋の店主。雨模様でお客の入りも悪く、佳音と同じく少し店を抜けて買い物に来ていたようだ。



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